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薬性から見る漢方【四性・補瀉・潤燥・昇降・収散の5つに分けて考える】

はじめに

薬性とは書いた通りですが薬の性質のことです。西洋薬でいう薬効とは少し異なっており、生薬自体が持っている性質のことです。

 

薬性=薬の性質

生薬の性質を表す内容としては、狭義では四性(温めたり冷やしたりするような作用)、広義ではその他に、補瀉(不足しているものを補い、余分なものを排出させるような作用)、潤燥(潤わせたり、乾燥させたりするような作用)、収散(外に発散させたり、内に収めたりする作用)、昇降(体内に入るとどういう方向性を持つかという作用)といったものも含まれます。

これらの性質を基に、それぞれの症状にあった使い方を考えます。例えば、熱をもった症状を治すには寒性の生薬を用い、寒をもった症状を治すには温性の生薬を用います。気や血が不足している症状(虚証)を治すには補性の生薬を用い、余分なものを蓄積した症状(実証)を治すには瀉性の生薬を用いるなどです。

生薬の薬性を考えてみる

生薬の薬性を四性、補瀉、潤燥、昇降、収散の5つに分けて考えると、その生薬がどのような性質を持っているかが分かります。具体的に実際の生薬で考えてみると次の様に分けることが出来ます。

 

葛根(カッコン)
薬性:涼・補・潤・昇・散
四性→冷やす
補瀉→補う
潤燥→潤う
昇降→昇る
収散→発散させる

 

例として葛根を挙げましたが、上記の様に5つの薬性に分けることが出来ます。これを今度は葛根が入っている方剤(漢方薬)として羅列してみます。

 

葛根湯(カッコントウ)
葛根:涼・補・潤・昇・散
桂枝:温・補・燥・中・散
麻黄:温・瀉・燥・中・散
生姜:温・補・燥・昇・散
芍薬:涼・補・潤・中・収
甘草:平・平・潤・平・収
大棗:温・補・潤・平・収
※平、中は中間

 

上記は葛根湯の中身です。一見するとバラバラのように見えますが、全体を見てみるとどちらかに傾いているものも結構あります。四性では温、潤燥では潤、収散では散に傾いているので、体を温めることで発汗させ、体に入り込んだ病邪を体から追い出します。(中医学ではこのような作用を持った薬を「解表剤」と呼んでいます)また、補瀉の項目を見てみると全体的には補に傾いていますが、麻黄の瀉が強力なため虚証(体力の無い方)には使えません。昇降では昇に傾いており、津液(=水)を上昇に分布させることで項背の硬直を緩和させるので肩こりにも効果があります。

葛根湯の効能・効果の一部を見てみると「自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるものの次の諸症」と記載されています。この記載の理由が上記に挙げられた内容と合致していることになります。また、汗を出させるためには体内に水分が無ければならないので、口の渇きがあるような場合は水分を多めに取ることで発汗作用が促されます。

葛根湯から葛根と麻黄を除いたものが桂枝湯になります。桂枝湯の構成生薬を5つの薬性に分けてみると次のようになります。

 

桂枝湯(ケイシトウ)
桂枝:温・補・燥・中・散
生姜:温・補・燥・昇・散
芍薬:涼・補・潤・中・収
甘草:平・平・潤・平・収
大棗:温・補・潤・平・収
※平、中は中間

 

四性では温、補瀉では補、潤燥では潤、収散では収に傾いています。先程の葛根湯と同様に体を温めることで発汗させ、体に入り込んだ病邪を体から追い出します。(桂枝湯も葛根湯と同じく「解表剤」に分類されます)葛根湯と大きく異なるのは、発汗作用の強い麻黄が入っていないところです。麻黄が入っていないため、汗をかいていて、比較的体力がない虚証に方にも使用できます。また、上昇作用の強い葛根が入っていないため、肩こりに対しては用いません。

薬能も合わせて考える

生薬を考える上で、もう一つ大切なことがあります。それが生薬の効果である「薬能」です。生薬は複数の薬能を持つことが多く、方剤によって生薬の薬能が変わってきます。例えば、葛根湯や桂枝湯に配合されている桂枝や生姜、芍薬の薬能は次の通りです。

◎桂枝(ケイシ)

皮膚の血行を良くして体を温めます。発汗作用は弱いため、発汗作用を強める場合には葛根湯のように麻黄を配合して発汗作用を増強します。また、胃腸への刺激により胃腸の運動を亢進させ、食欲を高める効果もあります。

◎生姜(ショウキョウ)

腹部を温め、血行を良くして汗を出させます。また、桂枝と同様に胃腸への刺激により胃腸の運動を亢進させ、食欲を高める効果もあります。

◎芍薬(シャクヤク)

収斂作用(引き締める作用)として発熱時の過度の発汗を抑えます。また、平滑筋や骨格筋の痙攣を緩める作用もあるため、こむら返りに使用することがあります。

まとめ

漢方薬は薬性と薬能で使い方が決まってきます。薬性の項目で述べたように、生薬の性質を見極めて使用しないと効果が出ないばかりか、悪化させてしまう可能性があります。例えば、冷えがある人に体を冷やすような生薬が多く含まれている漢方薬や、気や血などが不足している人に瀉す(排出)生薬が多く含まれている漢方薬を使用すると、症状が悪化してしまうので十分注意が必要です。

漢方薬を使用する際には、その漢方薬にどのような生薬が含まれているか、それらの生薬がどのような薬性や薬能を持っているのかを把握することが大切です。

 


【参考文献】
邱紅梅(2015)『わかる中医学入門』第十一版,燎原書店.
根本幸夫(2016)『漢方294処方-生薬解説』じほう.
宮原桂(2008)『漢方ポケット図鑑』源草社.