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人と自然が融合した陰陽五行【断片的に診ず、全体を診る】

はじめに

中医学は人と自然をひとつの統一体と考えており、人体の様々な生理現象は自然現象の一環であると考えます。人間のこれまでの長い歴史の中で、太陽や風雨、季節などの変化は人間に大きな影響を与えて、それは体調にも大きな変化を与えてきました。

古代中国の哲学

陰陽学説と五行学説は中医学の基礎となる考え方です。両者とも昔の人が考えた世界の「仕組み」や「法則」であり、中医学は自然観や宇宙観の上に作られた学問です。学説と言うと難しく感じますが、普段の何気ない生活に溶け込んでいる知恵と言ってもいいでしょう。難しい学問や思想ではなく、我々の生活に身近な「感覚」につながるものと考えます。

陰陽学説と五行学説

中医学で基本となる考え方には「陰陽学説」と「五行学説」というものがあります。両者とも馴染みのある言葉ではありませんが「こういった考え方もあるのか」という気持ちで読んでみてください。

◎陰陽学説

陰陽学説とは、世界のすべてを「陰」と「陽」に分けてしまう考え方です。陰陽として分けられているペアは、どれも「相反する性質」となっていて、相手がいなければ自分もいないと考えます。例えば、月は「陰」で太陽は「陽」と考え、お互いが生み出す光と影の法則です。

この陰と陽の関係を人間に当てはめて考えることが、中医学でいう陰陽学説になります。太陽が昇れば人は活動し、月が昇ると人は休息するというように陰陽によって自然と体のスイッチが切り替わります。陰と陽はどちらも欠けてはならず両者が共存すること、つまりバランスが保たれていることで人は健康でいられると考えます。

体の部位や組織、生理機能なども陰陽に分けることが出来ます。体の部位で言えば外側にあるものは「陽」、内側にあるものは「陰」という風に考えます。具体的には次の通りに分けることが出来ます。

◎五行学説

五行学説は世界を5つの要素から出来ていると考え、五行の関係から世界を読み解く方法です。五行の「五」とは自然界を構成する「木・火・土・金・水」の5つの要素を表し、「行」とは「運行」の意味です。全ての物や現象には5つの要素が含まれており、互いに変化し、影響しあいバランスを保っています。例えば「木は燃えて火を生む(生み出す)」「木は土の養分を吸い取る(抑制)」のように、生み出す関係であったり、抑制する関係だったりします。

この自然界の5つの要素を人間の体(中医学でいう五臓六腑)に当てはめて考えてみます。下のイラストは自然界の要素と人間の体を組み合わせたものになります。

五行の「木・火・土・金・水」は臓腑では「肝胆・心小腸・脾胃・肺大腸・腎膀胱」に割り当てられています。これらの主な役割は次の通りです。

臓腑の役割
木・肝:体内における「気」や「血」を貯蔵、循環に関わる。
火・心:心機能や血液循環のほか、脳による精神活動にも関わる。
土・脾:消化吸収機能や栄養を全身に補充させる機能に関わる。
金・肺:呼吸機能や皮膚機能のほか、免疫機能にも関わる。
水・腎:腎蔵としての機能のほか、成長や発育、生殖機能にも関わる。

 

五行学説を使った考え方の例で言うと、例えば皮膚疾患を治療するとき、皮膚は「肺」と繋がっていると考えるので肺を生み出す「脾」の負担を減らし、肺が生み出す「腎」を補強することを考えていきます。また、肺を抑制する「心」や肺が抑制する「肝」とのバランスも考えていきます。

五行学説では体の部位以外にも様々なものが分類できます。季節や感情、味などがあり、それぞれの項目に当てはまっているものは関係が深く、例えば体の一部に何か問題があるときは、関連した項目にも何か問題があるのではないかと考えます。具体的には次の通りに分けることが出来ます。

まとめ

中医学の基本的な考え方である陰陽学説と五行学説について説明しましたが、初めて耳にする方にはピンとこない部分も多かったかと思います。西洋医学が主流の今日ではなかなか受け入れられない部分も多く、理解もし難い概念ではありますが、自然をベースに考えられた学問なので「自分の常識とは違う、中医学は変だぞ」ではなく、「ありのまま理解しよう」という気持ちを持ってもらえればと思います。

中医学では西洋医学のように症状を断片的に診るのではなく、一つの症状をからだ全体のバランスとして考えています。陰陽学説も五行学説も効果的な治療法を推察するための有益な手段として中医学では用いています。

 


【参考文献】
小金井信宏(2009)『中医学ってなんだろう-①人間のしくみ』東洋学術出版社.
平馬直樹・兵頭明・路京華・劉公望監修(1995)『中医学の基礎』東洋学術出版社.