まずは食生活の見直しを
漢方薬に限ったことではありませんが、服薬を開始する際にはまず自分自身が変わろうという気持ちになるように切り替えましょう。中医学では「養生」という言葉を使いますが、簡単に言えば生活習慣を見直しましょうという話です。今回は生活習慣の中でも食事に関する内容です。
「薬を飲めば何とかなる」
「薬を飲めば何も我慢しなくても大丈夫」
「薬を飲んでるから今までと同じ」
もし、このような気持ちで服用しているならば、それはとても勿体ないことです。辛い症状がある場合、そこには何かしらの原因があります。その原因を見極めて治療を開始したとしても、治したいという気持ちをしっかり持って自分自身の意識を変えなければ薬の効果は十分に発揮されません。まずは食事に関して取り組むことが重要です。
人間の身体は毎日の食事から摂る栄養素で作られていますが、食事を整える(見直す)ことが健康を保つ基本的な考え方となります。そのため、バランスを考えて食べ物を選ぶことが大切です。中医学ではカロリー計算で食べ物を選定するのではなく、各々の食べ物が持っている「味」と「性質」から食事を考えます。
五性と五味を知ろう
漢方薬には薬性、薬味といった考え方がありますが、食べ物にも同じように「五性」「五味」といった性質があります。(薬性、薬味に関しては過去記事「西洋医学とは異なる中医学」を参照してください)毎日の食事では、この「五性」と「五味」をバランスよく摂り、自分の体調や季節の変化に合った食材、食品を積極的に摂り、身体のバランスを整えましょう。
◎五性(温・熱性、平性、寒・涼性)
<温・熱性>
体を活性化する性質、体を温める性質、エネルギー代謝を促進させる性質(酢、パセリ、カボチャ、生姜、栗など)
<平性>
体を温めたり冷やしたりする性質がない(レモン、銀杏、蜂蜜、玉葱、イカなど)
<寒・涼性>
水分を補い炎症を鎮める性質、体を冷やす性質( キウイ、コーヒー、バナナ、大根、ワカメなど)
◎五味(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味)
<酸味>
筋肉や内臓を引き締める性質、汗や尿などの過剰な体液流失を抑える性質( 酢、レモン、キウイなど)
<苦味>
体内の余分な水分を除去する性質、体の余分な熱を冷ます性質( パセリ、銀杏、コーヒーなど)
<甘味>
筋肉の緊張を緩めて痛みを取り除く作用、血の栄養分を補う作用( かぼちゃ、蜂蜜、バナナなど)
<辛味>
体を温めて停滞している気や血の流れを改善する作用、邪気を発散する作用(生姜、玉葱、 大根など)
<鹹味>
固まったものを柔らかくする作用(栗、イカ、ワカメなど)
◎五性×五味
五性と五味をもつ食材、食品などをバランス良く組みあわせることで、体の調子を整える準備が出来ます。例えば、体が冷えていて、疲れているような場合は「温・熱性」×「甘味」の食材、食品を摂ることで、体を温めて疲れが取れるように体のバランスを整えます。
旬の食材を積極的に摂ろう
食事を見直す上で、旬の食材を取り入れることもポイントです。旬の食材にはその季節にあった性質があり、夏には身体を冷やす食材、冬には身体を温める食材が多くあるので、その時々で季節に合った食材を取り入れた料理がおすすめです。
◎春の食材
菜の花、からし菜、玉葱、ふき、筍、そらまめ、ワカメ、ハマグリ、牡蠣、イカ、海老、アサリなど
◎夏の食材
いんげん、おくら、かぼちゃ、きゅうり、枝豆、とうもろこし、カツオ、アジ、鮎、ア穴子、イワシなど
◎秋の食材
さつまいも、さといも、えのき、椎茸、人参、長葱、サバ、鮭、シラス、秋刀魚、シシャモ、ニシンなど
◎冬の食材
小松菜、春菊、大根、白菜、ほうれん草、蓮根、ブリ、ワカサギ、タラ、平目、イナダ、アンコウなど
和食中心がおすすめ
食事の基本は和食がおすすめです。理由としては「一汁三菜(ごはん、汁物、主菜、副菜、漬物など)」を基本にしたバランスのよい献立だからです。特に、味噌汁は毎日飲んでもらいたいです。味噌汁には様々な具材を入れることができるので、一度に沢山の具材を食べられます。また、和食の調理法は「茹でる」「焼く」「蒸す」「生」など油を使わずに料理されるものが多いので、洋食に比べると油分が少なくなります。
旬の食材や体にいい食材を選んでも、食欲が無かったり、栄養を十分に吸収できなかったりでは食材の性質を活かしきれません。食欲不振などの不調があるときは、脾胃(胃腸)の調子を整えることから始めましょう。脾胃は冷やすと機能が低下するので、まずは冷やさないように、そして味噌汁や鍋物を摂るようにして体の中から温めると良いでしょう。
まとめ
生活習慣の中でも特に食事の影響は大きく、毎日の食事に気を配ることで体質改善にも繋がります。好きな物だけを食べたい気持ちは分かりますが、健康に気をつけたい気持ちがあればきっと変えられると思います。我慢するというよりは、工夫をして楽しみながら献立を考える取り組みをすると良いでしょう。
まずは、出来る事から始めて、長く続けられるよう頑張ってください。
阪口珠未(2013)『毎日使える薬膳&漢方の食材辞典』ナツメ社.
薬日本堂監修(2010)『毎日役立つからだにやさしい薬膳・漢方の食材帳』薬日本堂.
大森一慧(2008)『からだの自然治癒力をひきだす食事と手当て-新訂版』サンマーク出版.