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中医学にもある生理学や病理観


人体を構成する要素


人は生命を維持するために飲食物を摂取し、空気(酸素)を吸うことによって栄養素を確保して人体を構成する成分やエネルギーを得ています。中医学では飲食物のことを「水穀(スイコク)の精微(セイビ)」と呼んでいます。また、空気(酸素)のことを自然界の「清気(セイキ)」と呼んでいます。

水穀の精微と清気から生成されるものがあり、「気(キ)」「血(ケツ)」「津液(シンエキ)=水」の3つがあります。これらは人体を構成する成分やエネルギーに該当します。聞きなれない言葉の多さに、理解できず戸惑う方も多いかと思います。特に「気」に関しては目に見えないものであるため、更に困惑されるかと思います。

◎気

気合を入れる、元気、気力、気が滅入るなど、「気」を使った言葉は日常でも使用されていますよね。気は目には見えないものでありますが、中医学では「物質」であると考えます。物質であるため消耗したり、補充したり出来るものと考えます。また、気は運動性を持ち、生理機能の中心となっています。気が不足していると「気虚(キキョ)」と呼び、停滞していると「気滞(キタイ)」と呼びます。

気の作用は体を温めて活動を促進したり、体液を体外に流出しないように留める働きがあったり、外敵から身を守る機能を持っていたりと、その作用は多岐に渡ります。

◎血

血は体の栄養源としての働きがあります。血は血液中を流れる赤色の液体で、気と同様に人体を構成する物質で、全身を巡り生命活動を維持します。西洋医学でいう血液と類似した概念ですが、赤血球や血小板といった区別は無く、生成や作用も異なります。血が不足すると「血虚(ケッキョ)」と呼び、停滞すると「瘀血(オケツ)」と呼びます。

血の作用は全身に栄養や潤いを与えたり、精神を落ち着かせたりする働きがあります。気と血はお互いに関連していることから、血の不調は気の不調を伴うことがあります。

◎津液(水)

津液は体内の水液の総称です。水液には唾液、胃液、汗なども含まれ、「三焦(サンショウ)」と呼ばれる通路を経由して全身に運ばれます。津液が不足すると「陰虚(インキョ)」、停滞すると「水湿(スイシツ)」と呼びます。

津液の作用は全身を潤すことで、各部位の乾燥を防いだり、関節や靭帯などの動きを円滑にしたりする働きがあります。津液は血の一部でもあるため、津液の不足は血の不足を伴うことがあります。

 


解剖学的な考え方


西洋医学での内臓は中医学では似ていて異なるものです。中医学では内臓のことを「五臓六腑(ゴゾウロップ)」と呼び、5つの臓(ゾウ)と6つの腑(フ)で構成されます。形態や役割分担はもちろん異なっています。大まかな働きとして、まず五臓は気・血・津液を生成したり、貯蔵したりします。そして六腑は水穀(飲食物)を消化して、体に必要なものと不要なものを分け、必要なものは五臓に受け渡し、不要なものは排泄します。

五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の総称で、六腑とは「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」の総称です。五臓と六腑は互いに表裏関係にあると考え、「肝と胆」「心と小腸」「脾と胃」「腎と膀胱」の組み合わせとなっています。三焦は津液の説明でもあったように水液の運搬を行っており、臓腑間における水液を運行させる通路となっているため五臓との表裏関係にはありません。ここで、五臓六腑のうち五臓に関して少しだけお話します。

◎肝

全身の気や血の流れを調整します。また、血を貯蔵し全身の血の量を調整しています。また、肝は体の部位では「目」や「爪」、感情では「怒り」と関わりがあるため、肝の変調は目や爪に現れたり、怒りによって肝の変調を起こしたりすることがあります。

◎心

全身に血を巡らせ、意識や思考、記憶などの精神活動を制御します。また、心は体の部位では「舌」「顔」、感情では「喜び」と関りがあるため、心の変調は舌の色や顔の色つやに現れたり、喜びによって血の運行を促したりすることがあります。

◎脾

水穀の精微(飲食物)の消化と吸収、運搬を行い、血が脈外に漏れ出るのを防ぎます。また、脾は体の部位では「口」「筋肉」、感情では「思い」と関りがあるため、脾の変調は味覚や食欲、力が入らないなどの症状に現れたり、思いすぎや考えすぎは脾に変調を起こしたりします。

◎肺

呼吸によって清気(酸素)を取り込み、気や津液(水)を全身に行き渡らせます。また、体の部位では「鼻」「皮膚」、感情では「憂い」や「悲しみ」と関りがあるため、肺の変調は嗅覚や抵抗力が落ちたり、気がふさぐと肺に変調を起こしたりします。

◎腎

精(精気)を蓄えたり、体に元気をもたらしたり、水分の代謝を調節します。また、体の部位では「耳」「髪」「骨」、感情では「恐れ」と関りがあるため、腎の変調は耳鳴り、髪が薄くなったり、骨がもろくなったり、強い恐れが腎に変調を起こしたりします。

 


まとめ


西洋医学の知識がある方には少々理解し難い内容だったかと思います。西洋医学とは似ているようで、考え方や機能はまったく異なるものです。西洋医学は個々の臓腑(臓器)を治療する考え方ですが、中医学では個々の臓腑を単独で治療することはせず、体の細かい変化から、臓腑の働きや病変を考え、全身のバランスを整えていく考え方になります。漢方薬は基本的には自己治癒力を引き出すためのもので、停滞しているものは動かして、不足しているものは補います。

 


【参考文献】
邱紅梅(2015)『わかる中医学入門』第十一版,燎原書店.
関口善太(1993)『やさしい中医学入門』東洋学術出版社.
平馬直樹・兵頭明・路京華・劉公望監修(1995)『中医学の基礎』東洋学術出版社.