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生薬の組み合わせで更なる効果を期待できる漢方薬


生薬と漢方薬の違い


生薬は天然の植物や鉱物、動物などの一部または全部を簡単な加工を施して薬として用いるものを指します。例えば、料理でも使用することがある「シソの葉」の生薬名は「紫蘇葉(シソヨウ)」と呼びます。薬用部位はシソ科シソの葉を乾燥したものを用います。薬性は「温」、薬味は「辛」、帰経は「肺」「脾」となります。(薬性、薬味、帰経に関しては過去記事「西洋医学とは異なる中医学」を参照してください)紫蘇葉は体を温め、停滞しているものを動かし、発散させる作用をもちます。

漢方薬は上記のような生薬を複数組み合わせて作られた薬です。例えば、先ほどの紫蘇葉が含まれた漢方薬に「香蘇散(コウソサン)」というものがあります。この薬は紫蘇葉の他に、香附子(コウブシ)、陳皮(チンピ)、炙甘草(シャカンゾウ)、生姜(ショウキョウ)が組み合わされています。紫蘇葉以外の生薬も配合されているため、紫蘇葉以外の効果も含まれており、香蘇散の効果としては発汗作用や食欲不振を解消するなど、主に感冒(風邪)や胃腸障害などに使用することが出来ます。また、香附子も多く含まれているため月経不順など女性特有の症状に対しても使用することがあります。

このように、生薬では単体の効果でも複数の生薬を組み合わせる漢方薬にすることで様々な症状に用いることが出来るようになります。漢方薬は2~10種類程度の生薬で構成されているものが多く、生薬ごとにある個々のメリットやデメリットを組み合わせることで生薬単体での効果の偏りを調整し副作用を抑え、相乗効果を期待することが出来ます。漢方薬で副作用が起こりにくいと言われている理由は、適切な生薬の組み合わせによるものと言われています。

 


効果を引き出す君臣佐使


生薬の組み合わせは無造作に行っているのではなく、君臣佐使(クンシンサシ)というルールに則って行われています。君臣の君は「君薬」、臣は「臣薬」、佐使は「佐薬」「使薬」と呼ばれ、君薬が主な症状に対応する最も重要な生薬、臣薬は君薬に次いで重要な生薬で君薬を補助し効果を高める働きをします。佐薬と使薬は君薬の補助や臣薬の調和、他の生薬の毒性を抑える働きがあります。このように複数の生薬が組み合わさることで、生薬単体の効果から更なる効果を引き出せるのです。

先ほどの漢方薬「香蘇散」で考えてみると、君薬は「紫蘇葉」、臣薬「香附子」、佐薬は「陳皮」、使薬は「炙甘草」「生姜」となります。君臣左使で考えてみると、香蘇散の中で最も重要な生薬は紫蘇葉ということになりますので、「体を温め、停滞しているものを動かし、発散させる作用」が効果を発揮する感冒(風邪)や胃腸障害に使用する場合が多くなるわけです。

 


漢方薬の種類


漢方薬は煎じ薬やエキス剤、丸薬など幾つかの種類に分けられます。漢方薬本来の服用は煎じ薬ですが、日常生活の中で時間や場所の都合で煎じ薬が服用できないケースもあるため、その人のライフスタイルにあった種類を選択することが出来ます。

◎煎じ薬

水から生薬を煮出した薬液で、ガラス容器や土瓶で30分~60分程度の時間をかけて煎じ、抽出された薬液を服用します。時間と手間がかかるため、毎日行うのが大変になる場合もあります。

 

◎エキス剤

煎じ薬を濃縮した薬で、乾燥顆粒になっているものです。エキス剤も煎じ薬のようにお湯(または、ぬるま湯)に溶いて液体にして服用する方法が望ましいですが、時間が無い場合などにはそのまま水と一緒に服用することも可能です。

 

◎丸薬

生薬を粉末状にしてハチミツなどで丸い形に固めた薬で、そのまま服用できます。比較的飲み易い剤型となっていますが、1回の服用量(数)が多くなる場合があります。

 

◎散薬

生薬を細かく粉末状にした薬で、白湯や水で服用します。原末なので少々飲みにくい場合があります。

 


漢方薬の飲み方


漢方薬の正しい効果を得るためには、正しい服用方法が大切です。通常、漢方薬は食前や食間に服用します。食前とは食事の30分~60分前、食間とは食事中ではなく食事と食事の間、時間にすると食事の前後2時間を指します。体に上手に吸入させるためには水よりもお湯(または、ぬるま湯)がよく、薬の香りも効果のひとつと考えます。(丸薬は溶かす必要がなく、そのまま服用します)

 


瞑眩


漢方薬を服用した際、症状が一時的に悪化し、副作用と思われる症状が現れる場合があります。これは「瞑眩(メンゲン)」と呼ばれる症状で、症状が良くなる前の好転反応のことを指します。マッサージなどの後で起こる「揉み返し」と同じような原理で、漢方薬を服用することによって、体内に溜まっていた不要なものが流れ、排出されることが原因と言われています。具体的な症状で例えると、胃の不快感や吐き気、下痢、腹痛などがあります。これは不要なものが体内から排出され、身体が変化し始めた兆候と捉えます。もちろん、全ての人に起こるものではなく何も起こらない人も沢山います。

瞑眩が起こるタイミングは人によって異なりますが、漢方薬を服用し始めた翌日から数日の間で起こる場合が多く、その症状の期間も人によって異なり、数日で収まる場合もあったり、1週間程度続く場合もあったりと異なります。副作用との違いが分かりにくい場合があるため、症状が長引く、症状が悪化する場合には自己判断せずに漢方薬を出してもらった先へご相談ください。

 


まとめ


漢方薬に関する基本的な内容について記載しました。漢方薬がどういうものなのかが何となくでも理解できたでしょうか。非常に奥が深い分野ですので、この他にも漢方薬に関する内容は多岐に渡りますが、今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。

 


【参考文献】
平馬直樹・兵頭明・路京華・劉公望監修(1995)『中医学の基礎』東洋学術出版社.
根本幸夫(2016)『漢方294処方-生薬解説』じほう.
創医会学術部編(2004)『漢方用語大辞典』第十版,燎原.